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ひららかのブログ

学位記授与式のあと

 扉のガラス越しに、袴およびスーツに身を包んだ同級生たちがそろって背すじを正しているのを覗き見て、勘違いに気づいたものの、気づいたところでどうしようもありませんでした。私は今日の学位記授与を、めいめい都合のよいときに現れて手続きを済ませるものと思い込み、正午にさしかかってから、つまり開始から三〇分ほど遅れて登校しました。すると、教室ではまさしく式典が執り行われており、晴れがましさときまりの悪さとがないまぜになって、ふきだしそうになるのをこらえながら、薄ら寒いピロティにて閉式を待ちました。途中、見知らぬ団体の記念撮影を手伝って時間をつぶしました。

 かんぺきな晴れ姿の友達を眺め、お気に入りの真っ赤なセーターや泥まみれのスニーカーと比べてみて、数秒ほどためらいのポーズをとったのち、やはり卒業論文を取り戻したく、ざわつきはじめた教室にすべりこみました。先生は、私服姿の遅刻者に詰問ひとつせず、学位記を朗々と読み上げ、両手で渡してくださったのでした。周囲では小さく拍手が起こりました。友達は私の不在にうろたえたと口々に言い、再会を喜びました。ますます募ってゆく晴れがましさときまりの悪さをもてあました私は、そこにないものを思うのは愛だね、とわけのわからない照れかたをするほかありませんでした。