ひらログ

ひららかのブログ

2018-01-01から1年間の記事一覧

何度でもここに書きつけましょう。人は決してわかりあいません。とりとめのないやりとりに挿入される「わかる」という相槌は、むろん私にとっても快いもので、励ましにも慰めにもなってくれますが、それはあくまで断片的かつ偶発的な共感にとどまるというこ…

卒業論文を出した日

「ごくろうさまでした」と、製本屋の店員さんにほほえみかけられ、深々と頭を下げてから来た道を戻るとき、私は品のよい紺色のハードカバーを思わず抱きしめていました。喉をつまらせて泣くことはできなくもないような気がするほどの、感傷をもよおしたので…

若いとき

いちばん若くてうつくしいときをくれたのだから、学生のころからつきあって結婚した妻のことを責任もって愛しぬくつもりだ、というような発言が美談として取り上げられるのを観測して、やはり私に地球人の謳う愛はなじまないのだとぼんやり思いました。「う…

偏愛の人

塾講師のアルバイトをしていると、生徒からも友人からも、「学校の先生になりたくはないの?」とたずねられます。ここで授業をするのは楽しいが、と言い添えつつ、質問には「なりたくはない」と答えます。 そこかしこに人があふれかえっている公立の学校を出…

パルタイ

そらで言えそうなくらい「パルタイ」を読んだというのに、本作を取り上げるつもりの卒業論文ははかどらず、おまけに、倉橋由美子を愛しているのか憎んでいるのか、ますますわからなくなります。倉橋のことばに私は断片的に強く共鳴しますが、そこにはむつみ…

告白

1. 彼に告白をさせたい一心で、私は黙りこくって待っていました。 好きだと言わせたい。この使役の形をとったきわめて受け身な願望は、言質を取りたいという幼い不安にもとづいていました。つまり、告白さえ受ければ、「こんな私でも、あなたのほうから、…

オント

ここに書きつけてゆくわが思想めいたものの、ほとんどは産まれたてです。ひらめいたときに書くか、書いているときにひらめくかしています。文字を覚えるより早くから私の芯に根づいている性癖といえば、「指図されるのがきらいだ」くらいです(好きなタイプ…

官能ジャズ

レッスンにてエヴァンスのワルツを弾いたところ、「若いね」「色気がない」「それじゃマーチよ」と先生はさんざんほんとうのことをおっしゃって笑われました。表現者を形容する場合、「若い」とは、実年齢をさして言うものを除き、からかいか、せいぜい免罪…

トーク・アバウト・ナッシング

「彼氏いるんですか?」と、「きれいなおねえさんが好き」と述べたばかりの私にたずねたこの人は、さっきの「好き」を「そういう好き」ではないと受け取ったようだけれど、「そういう好き」ならばそれが双方向のものであるという確信を得るまでひた隠しに隠…

奇想版画家

週末の上野に雨は降りませんでしたが、長蛇の列に、ちらほらと傘の開いた眺めは、昨年の秋に同じ美術館を訪れたときとよく似ていました。その傘というのが日傘であり、心底から日射しを厭う顔がそこらじゅうに息づいているのを見て、しかしいまは夏であると…

先生・高校篇

この歳になっても古びた高校の校舎にいまだ足を運ぶ最後の目的は、浮世離れした恩師の住む英語科準備室を訪れることなのですが、担任だったその先生が私に「きみは高校生らしくないね。友達としゃべってもつまらないでしょう」と言ったのも、その部屋でした…

書生志望

学年末の課題にかこつけて目をつぶっていた就職活動に、ようやく手をつけました。 すると、私が研究に向かう情熱と才能を備えているか、あるいはとことん勉強がきらいであれば抱かずにすんだ迷いにも、ふたたび向きあう必要が生じました。進学はせず働くと決…