ひらログ

ひららかのブログ

トーク・アバウト・ナッシング

 「彼氏いるんですか?」と、「きれいなおねえさんが好き」と述べたばかりの私にたずねたこの人は、さっきの「好き」を「そういう好き」ではないと受け取ったようだけれど、「そういう好き」ならばそれが双方向のものであるという確信を得るまでひた隠しに隠す私にいま「そういう好き」を向けるおねえさんがいないというのは事実であり、したがって質問は適切になされたといえよう、いえようか? などと考えるうちに、私の髪は鎖骨の下あたりでこぎれいに切りそろえられてゆきます。

 彼氏さんと出かけないんですか、ディズニーとか? 行かないですねえ、人混みはにがてで。彼氏さんは行きたいって言わないんですか? ええ。お客さん、髪染めないんですか? ないですねえ。じゃあ、彼氏さんに染めてって言われたらどうですか? というふうに、行きそうにない場所や、そこにいない人をめぐって、私たちは鏡越しに台本を読み交わしたのでした。

 美容師さん、彼もそのほかのあらゆる他人もわが生活の芯にはなりえませんし、私はだれの指図も受けませんけれど、あなたがミラ・ジョヴォヴィッチはすてきだと言ったのと、荒れ放題の髪に軽やかな艶を取り戻してくれたのはすばらしかったです。この髪がもういちど壇蜜と並ぶくらいまで伸びたころ、私はあなたをすっかり忘れています。