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ひららかのブログ

官能ジャズ

 レッスンにてエヴァンスのワルツを弾いたところ、「若いね」「色気がない」「それじゃマーチよ」と先生はさんざんほんとうのことをおっしゃって笑われました。表現者を形容する場合、「若い」とは、実年齢をさして言うものを除き、からかいか、せいぜい免罪にほかならないのです。文章や演奏を若いと評されると恥ずかしくてたまらず、いちはやく老熟したいと焦るのは、まさに私が若いせいでしょう。

 お手本にしようと、『官能ジャズ』というオムニバスを借りました。エロスに教科書を求める発想それ自体にちっとも色気がないのですが、その点には思い至らなかったのです。そのアルバムは聴くものを酔わせる魅力を備えていましたが、官能を刺激する作品はほかにいくらでもある、というのも率直な感想です。そこから私は、ひとつの命題を導きました。官能的なジャズという言い回しは同語反復にすぎず、そもそもジャズとは官能的である。つまり官能的でなければジャズでなく、私の演奏はなりそこないのなにかということになります。

 チェット・ベイカーの低いささやきに明晰な意識を奪われながら、もうジャズはやらないと投げやりに思いました。それでも聴いているとまた弾きたくなってしまうほどに、エヴァンスは官能的です。