ひらログ

ひららかのブログ

海を聴きに

 一〇連休に入るのがうれしくて、海を聴きにか、海で眠りにか、退勤後にそのまま出かけた。家族には「海を見てくるから遅くなる」と連絡したが、このあたりのは黒くよどんだ水たまりみたいなもので、観賞には適さない。そもそも私は海がとりたてて好きではない。冷たい風の吹く水辺であればどこでもよろしいのだ。

 むくんだ足をひきずりながら堤防を進み、周囲の話し声が届かなくなったあたりでコンクリートに腰かけた。水は汚く、風はなまぐさい。曇天のためか、水平線は線と呼べるほどの輪郭をもたなかった。それでもいっこうにかまわない。私は海を見にきたのではなく、ぼうっとしにきたのだ。波と人工の壁が作りだす、複雑で周期的な音がたえず鳴っていた。ぶつかって砕ける、飛び散る、のみこむ、少しのあいだ凪ぐ、またぶつかる。それは半永久的にくりかえされるだろう。寒くてじっとしていられなくなるまで、ずっと海を聴いていた。

 それから野良猫の背中を眺めまわして帰った。優秀なエンジニアである友人から連絡があった。勉強好きの人だ。勉強をしたくてしていることになんの問題があるのだ、したいのならすればよい、と彼は、もっと少ないことばをつかって、焦る私に教えた。楽しい、気休めにすぎぬかもしれない勉強を、私はつづけることにする。