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ひららかのブログ

サボテン

 自宅の近所に、いまどきの都市部にはめずらしく、古い平家が三軒隣りあっていた。今月の半ばごろから、取り壊しが着々と進んでいる。両端は長いこと空き家となっており、中央の、最後の住人は春に亡くなった。当時、私は前職の研修で県外に出ており、外泊の許される土曜日まで、私の家族はその事実を伏せていた。葬儀には間に合わなかった。朝早くに連絡を受け、観光にくりだす同期生にかろうじて笑いかけ、声をあげて泣ける場所を探して歩きまわったのを覚えている。

 その人を仮に只野さんとしよう。只野さん邸の庭は四季を通じて緑色をまとっていた。花より草が目立ち、どれも手入れが行き届いてた。盆栽の鉢は家族が持ち帰ったらしいが、大人の背丈ほどもあるサボテンだけは抜けなかったのだろう。おとずれるものは虫と野良猫だけになった土壌で、ますます太ってゆくようだった。紅色の花がひらいた日、私は祖母とともにはしゃいだ。

 それも今月の半ばごろまでの話だ。週末、デートから帰ると、サボテンの姿がない。かつての庭は取り外した浴槽や便器の仮置き場になったのだ。いずれこうなることも、そうするほかないこともわかっていた。とはいえ、穴の塞がらないようなこころもちは、どうしようもない。その夜は風呂を熱めに沸かした。